優美な白い肢体が、寝台で艶かしく繰ねる。熱を帯びて、尚も与え続けられた肌はしとりと汗ばみ、髪が張り付いていた。
長い睫毛は雫が朝露のように溜まり、一滴が流星のように、滑らかな頬を伝い落ちる。
水の膜で覆われ、それを払って視界を明瞭にさせたいのか、先程から何度も目蓋が弱々しく開閉しては、唇は何か言いたげに震えた。だが、ひとたび開けばあられもない声を上げてしまいそうになり、それを耐えるために、きゅ、と噛み締められる。そのために、紅を引いたような色を帯びて唾液で濡れ光っていた。
片手で組み敷いた相手の手首を一纏めにして、もう片方の手で細い腰を掴み、埋めた砲身を浅く抜き挿しさせて、鮮やかな赤毛を持つ青年は双眸を細める。
張りでた箇所を淵に引っ掛けるようにさせれば、内部は引き留めようとでもするかのように蠢いた。
「っア、」
手で口を覆うことも出来ず、つい声がこぼれ落ちる。気恥ずかしげに目を伏せて顔を背け、荒く息を吐き出した。金糸から覗く蒼氷色と評される美しい宝玉のような瞳が、濡れて、キルヒアイスを映す。
「もう、駄目だ、キルヒアイス。」
「まだ、でしょう?ラインハルト様。」
そっと、前に手を動かす。壊れ物にでも触れるかのように、優しく性器に手を伸ばせば、既に先走りでしとどに濡れて充血しきった其れは先端に新たな蜜を滲ませた。
「やっ、」
「御嫌でしたか?」
「ちが、う。」
かぶりを振って、弱々しいながらも否定する。
じわり、とまた新たに瞳を水の膜が潤した。
キルヒアイスの剛直を包み込む内壁が、きゅう、と物欲しげに締め付ける。
時間の経過も気にする余裕などなく、追い立てられ、攻められて、理性は蕩けきっている。ほんの僅かにだけ残った其れが、手放しに快楽に浸るのを阻害している所為で、ラインハルトはもどかしそうに身を捩った。
普段、鋭利な刃のような視線も頼りなく、冷徹な風貌は欠片も残さず消え失せている。はやく解放して欲しいのに、ゆるゆると愛撫を施され、己の手は封じられて気が狂いそうだった。
殊更、ゆっくりと根元から先端までを指先でなぞり、溜まった蜜を塗り込めるように先端を指の腹で撫でる。びくびくと、痩身が波打った。
喉が反って、背がしなる。
「もう、達しそうですか、ラインハルトさま?」
「わかって、いるなら、どうしてッ」
迸る筈の本流を塞き止められて、声を上げた。
「ぁアっ!」
「今日は、駄目です。コレで、」
くぷ、と音を立てて楔を引き抜く。ぬらりとそれは絖った。ひくり、と収縮する蕾に、先端を滑らせる。
「コレだけで、達してください。」
「無理、だ。」
「いいえ、出来ます。だから触れては駄目です。」
再びこじ開けて、押し入れる。今度は深く、根元まで一気に埋めた。がつり、と骨がぶつかる感触。
「は、っあ、ああ!」
「ラインハルトさま、」
寝台が軋む。足を肩に担ぎ、ずんっ、ずんっ、と容赦なく突き上げる度に、肢体が跳ねた。
動きに合わせて、先端から白濁がほたほたと落ちては引き締まった下腹部に伝う。
手首は最早、戒められてはいなかったが何も意味を成さない。シーツを強く握り締め、その白い布に皺を深く生み出すばかりだ。
爪先が伸ばされて、ひくりと喉仏が上下する。大きく見開かれた瞳から、またひとつ涙が落ちた。
「キルヒアイス、」
甘く舌っ足らずに名を呼ばれ、奥歯を噛み締める。眉を寄せ、更に奥を抉った。白い手足が投げ出され、どちらともの獣じみた息遣いが空気をざわつかせる。
「あ―――――ァ、っ」
細く小さく、無意識のうちに溢れた声が天井を叩いて床に落ちる。無造作に放られ、力の抜けたラインハルトの躰を抱き起こし、額や頬に口付けを優しく落とす。あたかも、眠りから目覚めを誘う童話の出来事のように。けれど、あまりに無茶をさせたためか、随分と疲弊した様子で暫く起きる気配も無かった。
綺麗に身体を拭き清めて、寝台の布を取り替える。
そうすれば、無垢な姿のまま。
先程までの淫靡さは、露ほども留めていない。
健やかに規則正しい吐息を立てて、眠りの国の住人と化したラインハルトを見つめ、キルヒアイスは傍に腰掛けた。
髪を梳きながら、小さく謝罪する。
他には決して見せないだろう感情を、自分にだけは剥き出しにして甘えたり拗ねたりする。心の底から笑うのも、恐らくは。
けれど、もし他の者が現れてしまったら、と思わずに居られない。何時かは、来てしまうのかもしれない。その時、笑って祝福できる自信は残念ながら有していなかった。
逆に、こうして彼に何処までの無体が許されるのか、試してみたくもなる。呆れられるか、苦笑されるか。
(私は、貴方が思うよりずっと心が狭く臆病なのです、ラインハルトさま。)
指を絡ませて、手を握った。
既に冷えかけていた指は、確かに握り返される。
安堵したように、薄い唇が弧を描いた。
それを目にして、言葉を失う。
「・・・・ラインハルトさま。」
聞こえていないだろう。それでも、言葉を紡いで、口付けた。
(愛しています。この世で、誰よりも。)
(何があっても、何時までも。)
自分も横に並び、寝転がる。些か狭くはあったが、身を寄せればどうにか収まった。幼い頃は、こうして一緒に布団にくるまって過ごした。
何度も。特に嵐の夜や、怖い話をした後などは白く柔らかな要塞に引きこもったものだった。
それから随分と、二人とも成長した。だが、根本は変わっていない。
キルヒアイスの前を征き、眩しいまでの姿で飛翔し続ける。背中に翼が生えていないのを、不思議に思う程。
本当にあったら、困っただろう。無くてよかった、と胸をなで下ろすが、何時だって彼の白い背中を、肩甲骨を見ては翼の名残のようにも思えた。
「・・・飛んでいって、しまわないでくださいね。」
置いていかれては困るから、と。そう呟いて、瞼を下ろした。
Ende.
あとがき
なんだかRなのが書きたくて、何時の間にか薄暗いのに・・・。なんでだろう。赤金好きなのに、何時も思うように書けないです。